最高裁判所第一小法廷 昭和62年(オ)983号 判決 1990年6月04日
東京都足立区千住一丁目二三番二号
上告人・附帯被上告人
株式会社丸七製作所
右代表者代表取締役
阿部梅子
同所同番同号
上告人・附帯被上告人
丸七商事株式会社
右代表者代表取締役
阿部梅子
右両名訴訟代理人弁護士
及川昭二
和歌山市黒田七五番地の二
被上告人・附帯上告人
財団法人雑賀技術研究所
右代表者理事
井村覺
右訴訟代理人弁護士
宇津呂雄章
森谷昌久
宮原民人
右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(ネ)第四九九号、第一四〇六号特許権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が昭和六二年二月二六日言い渡した判決に対し、上告人らから一部破棄を求める旨の上告の申立があり、附帯上告人から附帯上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
本件附帯上告を却下する。
上告費用は上告人らの負担とし、附帯上告費用は附帯上告人の負担とする。
理由
上告代理人及川昭二の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
附帯上告について
附帯上告は、上告理由と別個の理由に基づくものであるときは、当該上告についての上告理由書提出期間内に、原裁判所に附帯上告状を提出し、かつ、それまでに附帯上告理由書を提出してすることを要する(最高裁昭和三七年(オ)第九六三号同三八年七月三〇日第三小法廷判決・民集一七巻六号八一九頁)ところ、本件附帯上告理由が本件上告理由とは別個の理由に基づくものであること、本件附帯上告理由書が提出されたのが、昭和六二年七月四日であり、本件上告受理通知書が送達された日から五〇日を超えた後であることは、記録上明らかである。したがって、本件附帯上告は、不適法であるから、却下を免れない。
よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)
(昭和六二年(オ)第九八二号 上告人 株式会社丸七製作所 外一名)
上告代理人及川昭二の上告理由
原判決は、次の一の審理義務に照らし二乃至四に具体的に開陳する通り判決に影響を及ぼすこと明らかな重要事項について審理不尽による理由不備の違法があり、破棄さるべきである。
一 控訴審の責務
(一) 控訴審(以下原審という)は、第一審のした実体判決に対し、その違法不当などの瑕疵を再査するための制度又は手続である。よつて原審では、控訴人(上告人)が控訴理由と主張した点を主たる審理対象として口頭弁論が進められるべきであり、それ故に控訴理由の提出が控訴人側に必須とされている。
(二) そこで原審は、第一審事件記録と控訴人提出の控訴理由に基き、事案についての事実上、法律上ある種の判断を一応構成した上で、原判決の再吟味、原判決の当否に係わることとなるのである。右の順序段階を経て事実関係の取調べすなわち職権により口頭弁論を指揮進行せしめて行く。なお原審は第一審判決の基礎資科となつた事実及び証拠のほかに原審として更に原審判断の必要から何を附加せしめるべきかの中心争点を策定することによつて審理の範囲を定め、その上口頭弁論を進めていくべきものである。
(三) 原審は前記(一)と(二)のような事案内容把握の理念形に基き、原職権による積極的な訴訟指揮がなされ当事者主張に対する釈明が十分になされ審理が尽されるような状態において訴訟審理が展開され、そのことによつて事案の真相がよりよく解明されて行くべきことが期待されるのである。
しかるに本件原審の審理を見ると、右のような裁判所の釈明を通じて、本件原審対象(とくに判決理由中の技術事項の判断)についてその解明が十二分になされなければならないのに-すなわち右技術事項についての判決理由について第一審での事実、証拠によるだけに依拠するだはではなく原審自体でも当事者の主張はもとよりその立証をよく尽させる釈明を十分した上で判断すべきであつたのに、本件ではそのような審理は全くなされていないのである。とくに原審は、第一審で、技術事項について検証、人証の証拠調を全くしていないのを知りつつ、控訴人の強い要請を無視して右証拠調をせずに審理を終結し判決に至つているのである。
二 「構成要件Aについて」の事実誤認
(一) 原判決は「本件発明の特許出願当時、風力に加え、撰別盤(控訴人らは「撰別盤」、被控訴人は「撰別盤」といい、用語が異つているが、両者は同一のものであつて、本件発明における多孔壁比重撰粒盤、控訴人製品における多孔盤1に対応することは弁論の全趣旨に徴し明らかである。以下本件発明及び控訴人製品を表示する場合を除き、「撰別盤」という。)を往復動させることによつて穀類の撰別を行う石抜撰穀機は、次のごとき構成を有し、作用効果を奏するものであることにおいて共通するものであると認められ、控訴人らの主張する揺動型と振動型とで差異がない。
(二) 構成
(1) 撰別盤を後方に向がつて傾斜させて配置したこと
(2) 撰別盤の後方端部には穀粒取出口が、前方端部には土砂粒子排出口がそれぞれ設けられていること
(3) 撰別盤の下方には、該撰別盤の各透孔から上方に向けて空気流を噴出させる送風機が設置されていること
(4) 撰別盤には、該撰別盤に斜め前後方向の往復動を与える往復動付与装置が連接されていること
(5) 撰別盤の上方には、土砂粒子が混入した穀粒を撰別盤上に供給するための穀粒供給口が設置されていること
(三) 作用効果
(1) 穀粒供給口から撰別盤上に落下した穀類は、該撰別盤の多数の透孔から上方に向けて噴出する空気流(噴風)によつて比重の小さい穀粒は浮き上がり、穀粒中に混入した比重の大きい土砂粒子は空気流に打ち勝つて沈下し、穀粒と土砂粒子に分離される。
(2) 撰別盤上に浮き上つた穀粒は、撰別盤が後方に向かつて傾斜しているため、空気流の影響を受けるものの全体としてみると、盤面の傾斜に従つて盤上を後方に流下し、穀粒取出口から排出される。
(3) 撰別盤上に落下した土砂粒子は、撰別盤に付与された斜め前後方向の往復動による慣性作用を受けるとともに、撰別盤の透孔から噴出する空気流が盤前方への指向性を有する場合は、該空気流の風力による吹送力が付加されて、盤前方に押上げられ、土砂粒子排出口から除去される。」
と、判決理由に示している。しかしこれは事実誤認が甚だしい。判決理由中に挙げている各乙号証中のどの部分によつてこのように認定したかの理由は全く示されていない。とくに「次のごとき構成を有し、作用効果を奏するものであることにおいて共通するものであると認められ」という認定は全く原審の独断である。控訴人申請のイ号現品及び本件発明の実施例通りの試作品の検証及び、本件発明者佐竹利彦の調べもせずにしたこのような表面的、皮相的認定は事実誤認、理由不備で違法である。
(四) 更に原判決は「乙第三九号証によれば、特許庁昭和五一年判定請求第四三号事件の昭和五五年一二月一〇日付判定書には、本件発明と控訴人製品に類似する(イ)号図面及びその説明書に示す石抜撰穀機は、噴風孔又は透孔からの噴風の強弱、及び多孔壁比重撰粒盤又は多孔盤の振動と揺動との差異によつて穀粒中に混在する土砂微粒子の撰別を行う作用を全く異にするものであることが認められる旨の記載が存することが認められるが、前掲乙第三九号証中の(イ)号図面及びその説明に基づいてこれを本件発明と対比検討すると、両者の撰別は、穀粒中の混合物はその比重差を利用して分離すること、盤面の傾きによつて浮上した穀粒は盤の下方に回かつて移動し、浮上しないで盤上に落下した比重の大きい土砂粒子は、盤の往復動による慣性の作用と指向性を持つた噴風力の作用によつて盤の上方に回かつて遡上することによつて行われる点において同一であり、本件発明では土砂微粒子は穀粒とともに浮上しながち盤上を後方低部に向かつて傾流するのに対し、(イ)号製品では土砂微粒子も盤の往復動と噴風によつて盤の上方に向かつて遡上し、そのうち噴風孔より小径のものは噴風孔より落下する点で相違するが、これは、噴風の強さという使用の態様の相違に基づく作用上の差異にすぎず、物としての石抜撰穀機の対比において、この種の作用の相違だけを取り上げてその異同を論じるのは誤りというべきであり、前記判定書の記載は、揺動型と振動型における撰別盤の往復動の型態の相違が両者の撰別機能に何らの差異をもたらすものではない旨の前記認定を妨げるものではなく、ほかに前記認定を左右するに足りる証拠はない。
したがつて、控訴人らの主張する揺動型と振動型とは、その構成及び作用効果において実質的な差異がなく、同一の技術的手段であるというべきである。」と判示される。しかし、本件発明とイ号との相違点を「噴風の強さという使用の態様の相違に基づく作用上の差異にすぎず-」と強調して、特許庁の揺動と振動との差異についてした機構学的素養、経験者専問家である審判官のした判定理由を誤りと速断している原判決こそ机上論であり誤つている。
三 「構成要件Bについて」の事実誤認
原判決は「乙第五二号証(米国特許第一、六三二、五二〇号明細書)-テーブルデツキは噴風するよう開口した多数の噴風孔を設けた比重撰粒盤である点で本件発明の多孔壁比重撰粒盤に相当し、また、金網43はその後方行程に設置した粒大撰粒機構である点で本件発明の多孔壁粒大撰粒盤に相当し、石抜機能を有する点において本件発明の石抜撰穀機に相当するが、さきに説示したとおり、本件発明は、噴風孔が前方もしくは前方斜め方向に噴風するように構成され、これにより他の構成とあいまつて土砂微粒子又は砕穀微粒子、穀粒などの比較的軽い粒子を浮上させ、盤上を後方低部に向つて傾流させ、また、穀粒の粒大とほぼ近似の重い土砂微粒子は多孔壁比重撰粒盤底面上に沈下すると同時に前高方へ吹送させる作用効果を奏するものであるのに対し、前掲乙第五二号証によれば、右テーブルデツキの噴風孔は噴風に指向性を持たせる機能を有せず、ただ上方に噴出させて穀類等をその重量に応じて層化させる機能を有するにすぎない(該重量粒子の移送はテーブルデツキの振動による押進作用によつて行われる。)ものと認められる点において相違している(前掲乙第五二号証によれば、テーブルデツキの端部にはバンキングブロツクが設けられ、指向性のある噴風(テーブルデツキを吹き上げる噴風に対して角度をもつて横切るような方向をもつた噴風)を噴出するが、この噴風はテーブルデツキの噴出孔から噴出するものでなく、テーブルデツキ上の穀類が小石、土塊に混合してバンキングブロツクの近傍に集つた場合に、穀類のみを分離放散させるためのものと認められるから、本件発明における噴風とは噴風の機能及び方向が相違する。)から、本件発明の構成要件Aを欠き、この公知文献をもつて本件発明の構成要件がすべてその特許出願当時すでに公知技術として示されているものということはできない。」
と判示される。この判決理由部分では、本件発明と乙五二号証との機能作用の差異を右のように強調されているが、前記乙三九号証の揺動と振動との差異を噴風の態様の相違に過ぎないとしている論理と矛盾している。
四 控訴人らの抗弁について審理不尽による理由不備原判決は「控訴人らは、被控訴人が本件専用実施権の設定を受けたのは、右権利を利用して控訴人製品を市場から放逐せんとしたためであり、また、本件専用実施権はその設定後訴外佐竹利彦と被控訴人とが激しく対立抗争し、右当事者間では実質その内容が完全に破綻したことを理由として被控訴人の本訴請求は正当な権利の行使の範囲を著しく逸脱しており、権利の濫用として許されない旨主張し、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証の一(東京弁護士会長作成の証明書)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二四号証の二(柏原健次作成の回答書)、乙第四四号証(控訴人株式会社丸七製作所の訴外株式会社佐竹製作所宛書簡)、乙第四五号証(同訴外会社の回答書)には、被控訴人が本件専用実施権の設定を受けた動機について一部控訴人らの主張に添うような記載があるが、右記載がそのまま真実に合うものとは認め難く、また、成立に争いのない乙第二六ないし第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第三二号証の一、二、第三三号証によれば、本件専用実施権の設定後、被控訴人と株式会社佐竹製作所との間で特許紛争が発生するに至つたことが認められるが、そのようなことから、本件専用実施権設定契約関係が破綻し、被控訴人の権利が実質上無に等しいものと評価されなければならないような事情にあることを認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの右抗弁は採用することができない。」
と判示し控訴人らの権利濫用の抗弁をも排斥している。しかし、控訴人らは、右主張事実の立証として、右挙示の言証のほか、第一審以来、本件発明者で本件特許権者会社の代表取締役である佐竹利彦氏、同社特許課長柏原健次氏、など重要証人を申請済であつたのである。
以上